新規入場者教育と送り出し教育の違い|法令上の根拠・教える内容・記録の残し方

特別教育

新規入場者教育も送り出し教育も、労働安全衛生法(安衛法)や労働安全衛生規則(安衛則)に出てくる名前ではありません。法律で決まっているのは、下請の会社が自社の労働者に行う雇入れ時教育・作業内容変更時教育(安衛法第59条)と、元請(特定元方事業者)が下請の教育を指導・援助し、現場に新しく入る人に現場の状況を知らせるための場所や資料を出すこと(安衛法第30条、安衛則第638条・第642条の3)です。新規入場者教育の具体的な進め方は「元方事業者による建設現場安全管理指針」が示していますが、これは「望ましい」やり方をまとめた行政の指針です。

この記事は、社員の教育や資格を管理する総務・人事・安全衛生の担当者向けです。「送り出し教育をしていれば雇入れ時教育はしなくてよいのか」「新規入場者教育は元請と下請のどちらがやるのか」「何を記録しておけばよいのか」といった疑問に、条文と厚生労働省の資料をもとに答えます。条文は2026年10月19日時点で施行されているものを使っています。

3つの教育の違い:誰が、いつ、何を教えるか

まず、混同されやすい3つの教育を並べて比べます。押さえておきたいのは、教育の実施そのものが法律で義務になっているのは雇入れ時教育だけで、残りの2つは現場の運用と指針が中心だという点です。

項目 雇入れ時教育(作業内容変更時教育) 送り出し教育 新規入場者教育
行う人 労働者を雇っている事業者(下請の会社も含む) 現場に作業員を送り出す協力会社(下請) 指針では下請(関係請負人)が職長などから伝え、元請は場所や資料を出して援助する。元請が自分で伝えることもある
時期 雇い入れたとき、作業内容を変えたときに、遅滞なく 現場に送り出す前 その現場で作業を始める前
法令上の扱い 安衛法第59条第1項・第2項で義務。内容は安衛則第35条 安衛法・安衛則にこの名前の教育はない 名前は法令にない。元請側の場所・資料提供は安衛則第642条の3で義務。教育の中身は元方事業者指針
主な内容 従事する業務の危険性、保護具、作業手順、作業開始時の点検、事故時の退避など(安衛則第35条の8項目) 会社が決める(法令の定めはない) 混在作業の場所の状況、危険箇所・立入禁止区域、避難の方法、指揮命令系統など(指針の8項目)
記録 安衛則に作成・保存の規定はない 法令の定めはない 指針では、下請が結果を元請に報告し、元請はそれを把握しておく

厚生労働省の外国人労働者向け教材(建設業)も、雇入れ時教育と新規入場者教育を説明したうえで、協力会社が作業者を現場に送り出す前に安全教育などを行う「送り出し教育」があると補足しています。送り出し教育は業界で定着した呼び名で、中身は各社に任されています。

法令上の根拠:義務と指針を分けて読む

「新規入場者教育は法定か」と聞かれたら、「元請の援助(場所・資料の提供)は法律上の義務、教育の細かい進め方は指針」と答えるのが正確です。根拠を義務の強さで並べると次のとおりです。

根拠 誰に向けたものか 何を求めているか 性格
安衛法第59条第1項・第2項、安衛則第35条 労働者を雇う事業者 雇入れ時・作業内容変更時に、従事する業務に関する安全衛生教育を行う 義務(違反すると安衛法第120条で50万円以下の罰金)
安衛法第30条第1項第4号、安衛則第638条 特定元方事業者(建設業などの元請) 関係請負人が行う安全衛生教育を指導・援助する。具体的には教育の場所や資料を提供する 義務
安衛則第642条の3 建設業の特定元方事業者 関係請負人が、現場に新しく入る作業従事者に「場所の状況(危険箇所を含む)」「作業同士の関係」などを知らせられるよう、場所や資料を提供する。元請が自分で知らせる場合は不要 義務
元方事業者による建設現場安全管理指針(平成7年4月21日付け基発第267号の2) 元請と下請の両方 下請は新規入場者に8項目を職長などから伝えて結果を元請に報告する。元請は援助し、実施状況を把握する 行政の指針(望ましい事項)
建設業における総合的労働災害防止対策の推進について(平成19年3月22日付け基発第0322002号) 元請 下請が行う新規入場者教育に資料・場所などを提供し、必要に応じて元請が自分で行う 通達による指導

「元請が現場で新規入場者教育をする」形は、法令上どう整理されるか

元請の職員が新規入場者教育を行う現場もあります。安衛則第642条の3には「特定元方事業者が自分で現場の状況や作業同士の関係を知らせるときは、場所・資料の提供は不要」というただし書きがあり、この運用はそれに当たります。一方、指針は、下請が自社の作業員に職長などを通じて伝え、結果を元請に報告する形を基本にしています。元請が教育する現場でも、下請の担当者が「自社の作業員がいつ、どの現場で受けたか」を自社でも把握しておくと、教育歴の管理が途切れません。

押さえておきたい改正

安衛則第642条の3と第638条は令和8年厚生労働省令第3号で改正されています(2026年4月1日施行)。今の第642条の3は、知らせる相手を「作業従事者」と書いています。安衛法第15条では、作業従事者は「事業を行う者が行う仕事の作業に従事する者」と定義されており、第30条も労働者でない作業従事者を含める書き方になっています。また、安衛則第35条は、一部の業種で第1号〜第4号の教育を省略できるとしていた規定が削られ、2024年4月1日から全業種で義務になりました。省略が認められていたのは安衛法施行令第2条第3号の「その他の業種」で、建設業(同条第1号)はもともと省略の対象外でした。なお、安衛法第59条には令和7年法律第33号による改正規定があり、2027年4月1日に施行されます。

送り出す側(下請)の担当者がすること

送り出し教育には法令で決まった内容がないので、下請の担当者は「この作業員を現場に出す前に、法律上何が済んでいなければならないか」から確認するのが確実です。次の順に確かめてください。

  1. 新しく雇った人か。雇入れ時教育(安衛法第59条第1項)が必要です。常用・臨時・日雇いといった雇用形態は関係ありません。教える内容は、安衛則第35条第1項の8項目のうち、その人が就く業務の安全衛生に必要なものです。十分な知識・技能があると認められる項目は省略できます(同条第2項)。
  2. 既にいる社員の作業内容が変わるか。作業内容が変わる場合は、作業内容変更時教育(安衛法第59条第2項)として同じ8項目から必要な教育をします。
  3. 特別教育・技能講習・免許が必要な作業をさせるか。名前が似ていても別の制度で、どの作業に何が必要かは作業ごとに決まっています。判定の仕方は特別教育と技能講習の違いで整理しています。
  4. 職長や安全衛生責任者として出すか。職長として出すなら職長教育(安衛法第60条)、安全衛生責任者として出すなら安全衛生責任者向けの教育の受講状況を確認します。対象と内容は職長教育は誰に受けさせるかを参照してください。
  5. 上の確認が済んだうえで、送り出し教育として何を足すか。自社の安全ルール、元請から受け取った現場の情報、受講済みの資格・教育の申告方法などです。

法令は教育の「呼び名」ではなく「時期と内容」を求めています。新しく雇った人に送り出し教育をする場合、その場で安衛則第35条の項目を、その人の業務に合わせて扱い、記録に残しておけば、雇入れ時教育をしたことを後から示しやすくなります。逆に、送り出し教育が現場のルール説明だけなら、それで雇入れ時教育の代わりにはなりません。

元方事業者指針は、元請が下請に、作業員の免許・資格の取得や特別教育・職長教育の受講の有無を把握するよう指導し、新しく現場に入る作業員については作業を始める前に元請へ知らせてもらうこととしています。送り出しの段階でこの情報をまとめておくと、入場の手続きが滞りません。

新規入場者教育で教える内容と、元請の段取り

元方事業者指針は、下請(関係請負人)が自社の労働者を現場で新しく作業させるとき、作業を始める前に、その現場の特性を踏まえて職長などから次の8項目を伝え、結果を元請に報告するよう示しています。右の列は、その情報を主に誰が持っているかを示したもので、指針の記載ではなく実務上の整理です。

指針の項目 主に情報を持っている側
①元請と下請の労働者が混在して作業する場所の状況 元請
②労働者に危険が生じる箇所の状況(危険有害箇所と立入禁止区域) 元請
③混在作業の場所で行われる作業同士の関係 元請(作業間の連絡調整の結果)
④避難の方法 元請
⑤指揮命令系統 元請・下請の両方
⑥担当する作業内容と労働災害防止対策 下請
⑦安全衛生に関する規程 元請・下請の両方
⑧現場の安全衛生管理の基本方針、目標、その他基本的な労働災害防止対策を定めた計画 元請

①〜③は、安衛則第642条の3が元請に資料提供などを求めている「場所の状況(危険箇所を含む)」「作業相互の関係」に当たります。下請が教育する場合でも、元請から配置図や現場ルールの資料を受け取らなければ中身を作れないのはこのためです。厚生労働省の委託事業で建設業労働災害防止協会が作った新規入場者向けテキストでは、所長方針、工事概要、施工管理体制、現場配置図、車両・通勤・交通、基本事項、現場独自のルールなどを教育資料の標準的な項目として挙げています。

指針は「建設現場で新たに作業に従事することとなった場合」としているので、同じ会社の別の現場に移ったときも、その現場で改めて新規入場者教育を受けることになります。雇入れ時教育が「業務」についての教育なのに対し、新規入場者教育は「その現場」についての教育です。

元請側の担当者が段取りすること

元請の安全衛生担当者や工事部門の総務の立場では、法律上の義務と指針上の取組みを分けて手順に落とし込みます。

時期 すること 根拠と性格
契約時 請負契約で労働災害防止対策の実施者と経費の負担者をはっきりさせる。指針は、安全のための講習会などへの参加を明示する対策の例に挙げている 元方事業者指針
入場前 新しく入る作業員の免許・資格、特別教育・職長教育の受講の有無を下請から知らせてもらう 元方事業者指針
入場時 下請が新規入場者に現場の状況などを知らせるための場所・資料を提供する。元請が自分で知らせるならその限りでない 安衛則第642条の3(義務)
随時 下請が行う安全衛生教育に対して場所・資料の提供などで指導・援助する 安衛法第30条第1項第4号・安衛則第638条(義務)
入場後 新規入場者教育の実施状況の報告を受け、把握しておく 元方事業者指針

費用の面では、厚生労働省の「安全衛生経費確保のためのガイドブック」が、送り出し教育や新規入場者教育を安全衛生経費の教育訓練費の費目として挙げています。どちらがどこまで負担するかは、契約で決めておくことになります。

記録の残し方:法定の保存義務があるもの、ないもの

記録の扱いは教育ごとに違います。法定の保存期間があるのは特別教育だけです。

教育 記録についての定め 根拠
特別教育 受講者・科目などの記録を作成し、3年間保存する義務 安衛則第38条
雇入れ時教育・作業内容変更時教育 作成・保存の規定はない 安衛則第35条
新規入場者教育 下請は結果を元請に報告し、元請はそれを把握しておく 元方事業者指針
送り出し教育 法令の定めはない なし

雇入れ時教育に記録義務がないといっても、労働基準監督署の調査や災害が起きたときに「教育したこと」を示せるのは記録だけです。様式は法令で決まっていないので、社内で次の項目をそろえておくと、どの教育でも同じ形で管理できます。

  • 実施日と時間、実施場所(現場名)
  • 教育の種類(雇入れ時・作業内容変更時・送り出し・新規入場者)
  • 扱った項目(雇入れ時教育なら安衛則第35条の何号を扱ったか、新規入場者教育なら指針の何番を扱ったか)
  • 講師の氏名・立場、使った資料
  • 受講者の氏名と本人の確認(署名など)

新規入場者教育を元請が行った場合は、元請が保管する受講記録の写しをもらうか、受講日を自社の台帳に書き写しておくと、作業員ごとの教育歴が自社で一覧できます。特別教育の記録の作り方は特別教育の記録は3年保存で詳しく説明しています。

よくある質問

Q. 新規入場者教育を受けていれば、雇入れ時教育はしなくてよいですか。

いいえ。雇入れ時教育は、労働者を雇った事業者自身の義務です(安衛法第59条第1項)。新規入場者教育は現場の状況を伝えるもので、安衛則第35条の項目(取り扱う機械や原材料の危険性、保護具の扱い、作業手順など)と重なるのは一部です。雇入れ時教育は、安衛則第35条の項目について自社で行い、自社で記録しておいてください。

Q. 送り出し教育をしなかったら法令違反になりますか。

「送り出し教育」という名前の教育を行う義務は、安衛法・安衛則にはありません。ただし、新しく雇った人や作業内容が変わった人を現場に出すのに安衛則第35条の教育をしていなければ、安衛法第59条の違反になります。送り出し教育を行わない場合は、雇入れ時教育が別に済んでいるかどうかを確かめてください。

Q. 一人親方にも新規入場者教育は必要ですか。

雇入れ時教育は労働者を雇う事業者の義務なので、雇われていない一人親方には当てはまりません。一方、現在の安衛則第642条の3は、現場の状況を知らせる相手を「作業従事者」と書いており、労働者でない人も含める書き方になっています。指針の新規入場者教育は「雇用する労働者」を対象にした書き方ですが、一人親方にも同じ内容を伝える運用にしておくと、第642条の3の書き方とも合います。

Q. 新規入場者教育の記録は何年保存すればよいですか。

法令で決まった保存期間はありません。法定の3年保存(安衛則第38条)は特別教育の記録の定めです。社内の文書管理規程で期間を決め、工事の期間中は現場で、工事が終わった後は本社で保管するといったルールを決めておくと、問い合わせに答えやすくなります。

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まとめ

  • 法律上の義務は、下請を含む各事業者の雇入れ時教育・作業内容変更時教育(安衛法第59条、安衛則第35条)と、元請が下請の教育を援助し、新規入場者に知らせるための場所・資料を出すこと(安衛法第30条、安衛則第638条・第642条の3)です。
  • 「新規入場者教育」「送り出し教育」という名前は法令にありません。新規入場者教育の進め方は元方事業者指針(望ましい事項)、送り出し教育の中身は各社の判断です。
  • 新規入場者教育は、指針の8項目(混在作業の場所、危険箇所、作業同士の関係、避難の方法、指揮命令系統、担当作業、規程、現場の計画)を、現場ごとに作業を始める前に伝えます。
  • 送り出し教育で雇入れ時教育を兼ねるなら、安衛則第35条の項目を扱ったことを記録で示せるようにしておきます。
  • 記録の法定保存期間(3年)があるのは特別教育だけです。雇入れ時教育や新規入場者教育も、日付・項目・講師・受講者をそろえた形で残しておきます。

出典

  • 労働安全衛生法 第15条、第29条、第30条、第59条、第60条、第120条、附則(令和7年5月14日法律第33号)第1条(厚生労働省 法令等データベース)
  • 労働安全衛生規則 第35条、第38条、第638条、第642条の3、附則(令和8年1月20日厚生労働省令第3号)第1条(厚生労働省 法令等データベース)
  • 労働安全衛生法施行令 第2条(安全衛生情報センター)
  • 労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について(令和4年5月31日付け基発0531第9号)
  • 元方事業者による建設現場安全管理指針について(平成7年4月21日付け基発第267号の2)
  • 建設業における総合的労働災害防止対策の推進について(平成19年3月22日付け基発第0322002号)
  • 厚生労働省「外国人労働者に対する安全衛生教育教材作成事業(建設業)共通『建設現場全般』」
  • 厚生労働省委託・建設業労働災害防止協会「建設現場における新規入場者に対する教育テキスト」
  • 厚生労働省「安全衛生経費確保のためのガイドブック」
  • 職場のあんぜんサイト「安全衛生キーワード:安全衛生教育」

制度は改正されます。業種・事業場の規模・作業内容によって扱いが変わるため、実際の適用は所轄の労働基準監督署・都道府県労働局・消防署・講習の実施機関で必ずご確認ください。

【資格・講習 合格ナビ 編集部 監修】技能講習・国家資格の専門メディア編集部が監修。合格率・取得費用・勉強法に関する情報を提供しています。
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