危険物保安監督者は、消防法第13条にもとづき、政令で定める製造所・貯蔵所・取扱所(以下「製造所等」)の所有者・管理者・占有者が選ぶ保安の責任者です。選べるのは甲種または乙種の危険物取扱者で、6か月以上の危険物取扱いの実務経験がある人に限られます。選任したときも解任したときも、遅滞なく市町村長等へ届け出る必要があります。
この記事は、社員の資格や選任状況を管理する総務・人事・安全衛生の担当者向けです。「自社の施設で選任が要るのか」「誰を選べるのか」「どこへ何を出すのか」「危険物保安統括管理者・危険物施設保安員とどう違うのか」という迷いに、条文と消防機関の公式資料で確かめられた範囲で答えます。
選任の義務を負うのは誰か
消防法第13条第1項は、義務を負う者を「政令で定める製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者」としています。義務を負うのは施設を持つ会社や管理する側で、危険物取扱者の資格を持つ社員本人ではありません。社内で担当者を決めるだけでは足りず、会社として選任し、届出まで済ませる必要があります。
選ばれた危険物保安監督者は、同項により「その者が取り扱うことができる危険物の取扱作業に関して」保安の監督を行います。監督の具体的なやり方は、同項で総務省令の定めによるとされています。
なお、危険物取扱者の資格がない人が製造所等で危険物を取り扱うには、甲種または乙種の危険物取扱者の立会いが必要です(消防法第13条第3項)。この立会いのルールは、監督者を置くかどうかとは別に、すべての製造所等にかかります。
自社の施設に選任が必要かをどう判断するか
判断は2段階です。まず「その場所が消防法上の製造所等か」を確かめ、製造所等であれば「政令で選任が必要とされた施設か」を確かめます。
1. 指定数量以上の危険物を扱っているか
指定数量(危険物の品名ごとに政令で決められた基準量)以上の危険物は、製造所・貯蔵所・取扱所以外の場所で貯蔵・取扱いをしてはいけません(消防法第10条第1項)。例外は、所轄の消防長または消防署長の承認を受けて、10日以内の期間、仮に貯蔵し、または取り扱う場合です(同項ただし書)。指定数量は危険物の規制に関する政令の別表第三に定められています。
品名や指定数量の違う危険物を同じ場所で扱う場合は、それぞれの数量を指定数量で割った値(商)を足し合わせます。その和が1以上なら指定数量以上とみなします(同条第2項)。この合計値が「指定数量の倍数」です。たとえば、指定数量の半分にあたる量の危険物Aと、指定数量の6割にあたる量の危険物Bを同じ場所で扱えば、0.5+0.6=1.1で指定数量以上となります。
2. 施設の区分を確認する
製造所等は次のように区分され、設置や変更には市町村長等の許可が必要です(消防法第11条第1項)。自社の施設がどの区分で許可を受けているかは、設置・変更許可の書類で確かめられます。品名・数量・指定数量の倍数の変更届出書(危険物の規制に関する規則の様式第16)の控えも手がかりになります。
| 施設の区分 | 大分類 | 内容(消防庁資料による) |
|---|---|---|
| 製造所 | 製造所 | 危険物を製造する施設 |
| 屋内貯蔵所 | 貯蔵所 | 屋内の場所で危険物を貯蔵し、または取り扱う施設 |
| 屋外タンク貯蔵所 | 貯蔵所 | 屋外にあるタンクで危険物を貯蔵し、または取り扱う施設 |
| 屋内タンク貯蔵所 | 貯蔵所 | 屋内にあるタンクで危険物を貯蔵し、または取り扱う施設 |
| 地下タンク貯蔵所 | 貯蔵所 | 地盤面下に埋没されているタンクで危険物を貯蔵し、または取り扱う施設 |
| 簡易タンク貯蔵所 | 貯蔵所 | 簡易タンクで危険物を貯蔵し、または取り扱う施設 |
| 移動タンク貯蔵所 | 貯蔵所 | 車両に固定されたタンクで危険物を貯蔵し、または取り扱う施設 |
| 屋外貯蔵所 | 貯蔵所 | 屋外の場所で、硫黄や一部の引火性固体、第四類の一部の危険物を貯蔵し、または取り扱う施設 |
| 給油取扱所 | 取扱所 | 固定した給油設備で自動車等の燃料タンクに直接給油するために危険物を取り扱う施設 |
| 販売取扱所 | 取扱所 | 店舗で容器入りのまま販売するために危険物を取り扱う施設。指定数量の倍数が15以下は第一種、15を超え40以下は第二種 |
| 移送取扱所 | 取扱所 | 配管・ポンプ等で危険物を移送するために取り扱う施設 |
| 一般取扱所 | 取扱所 | 給油・販売・移送取扱所以外で危険物を取り扱う施設 |
3. 政令で選任が必要とされた施設か
消防法第13条第1項は、選任が必要な施設を「政令で定める製造所、貯蔵所又は取扱所」としており、具体的な線引きは危険物の規制に関する政令に委ねられています。消防庁の検討会資料では、危険物保安監督者が必要な施設の例として「製造所、給油取扱所等」が挙げられています。
施設の区分ごと・指定数量の倍数ごとの細かな線引きは、この記事には載せていません。どの区分なら倍数にかかわらず必要か、どの区分なら一定の倍数や危険物の種類によって不要になるかを、政令の条文で一つずつ確認できなかったためです。自社の施設については、上の表で区分を確かめ、許可書類で指定数量の倍数と扱う危険物の類を確かめてください。そのうえで、施設を管轄する消防本部・消防署の危険物担当に問い合わせます。品名・数量の変更で倍数が変わったときも、同じ確認をやり直す必要があります。
誰を危険物保安監督者に選べるか
条件は「甲種または乙種の危険物取扱者であること」と「6か月以上の危険物取扱いの実務経験があること」の2つです(消防法第13条第1項)。資格の種類によって、監督できる危険物の範囲が変わります。
| 免状の種類 | 取り扱える危険物 | 無資格者の取扱いへの立会い | 危険物保安監督者への選任 |
|---|---|---|---|
| 甲種危険物取扱者 | すべての危険物 | すべての危険物で可 | すべての危険物で可 |
| 乙種危険物取扱者(第1類〜第6類) | 免状に記載された類の危険物 | 免状に記載された類で可 | 免状に記載された類で可 |
| 丙種危険物取扱者 | ガソリン、灯油、軽油、第三石油類(重油、潤滑油、引火点130度以上のもの)、第四石油類、動植物油類 | 不可 | 不可 |
人選でつまずきやすい点は次の3つです。
- 乙種の類と、施設で扱う危険物の類が合っているか。監督できるのは「その者が取り扱うことができる危険物」の取扱作業に限られます。乙種第4類の人は、第4類以外の危険物の取扱作業を監督できません。複数の類を扱う施設では、甲種の人を選ぶか、扱う類をカバーする乙種の免状があるかを確かめます。
- 丙種は対象外であること。丙種はガソリンや灯油など一部の危険物を取り扱うことはできますが、立会いも監督者への選任もできません。丙種の社員を将来の候補にするなら、乙種か甲種の取得が前提になります。
- 実務経験6か月を書面で示せるか。届出には実務経験証明書を添えます(後述)。取り扱った危険物の類・品名や期間を早めに整理しておくと、手続が滞りません。異動の多い社員ほど注意が必要です。
免状は試験に合格した都道府県の知事が交付しますが、効力は全国に及びます。他県で取得した免状でも選任できます。甲種の取得方法は危険物取扱者甲種の取得方法の記事にまとめています。
選任・解任の届出:何を、いつ、どこへ出すか
消防法第13条第2項により、危険物保安監督者を定めたときは遅滞なく市町村長等に届け出なければならず、解任したときも同じです。法律には「何日以内」という日数は書かれておらず、「遅滞なく」とされています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 届け出る人 | 製造所等の所有者・管理者・占有者 |
| 届け出るとき | 選任したとき、解任したとき(いずれも遅滞なく) |
| 届出先 | 市町村長等。東京消防庁の管内では、島しょ地区以外は管轄の消防署、島しょ地区は本部庁舎の危険物課 |
| 届出書 | 危険物保安監督者選任・解任届出書(危険物の規制に関する規則 様式第20) |
| 添付書類 | 実務経験証明書(同 様式第20の2)。東京消防庁は届出に必要な資料としてこの2点を挙げています |
| 提出方法 | 東京消防庁では電子申請、窓口、郵送のいずれも案内されています。他の消防本部では受付方法を各本部で確認してください |
人事異動で監督者が代わる場合は、前任者の解任と後任者の選任の両方を届け出ます。異動の辞令を出す段階で、後任の資格(甲種か、乙種なら何類か)と実務経験を確認しておきます。解任と選任の届出を同時に準備しておけば、監督者が不在になる期間を作らずに済みます。
危険物保安統括管理者・危険物施設保安員との違い
危険物施設の保安体制には、危険物保安監督者のほかに、危険物保安統括管理者と危険物施設保安員があります。消防白書の説明では、一定数量以上の危険物を扱う施設の所有者等には、監督者の「選任」、施設保安員の「選定」、予防規程の作成が義務付けられています。同じ事業所で一定の施設を持ち、一定数量以上の危険物を扱う者には、自衛消防組織の設置と統括管理者の選任も義務付けられています。
| 比較項目 | 危険物保安統括管理者 | 危険物保安監督者 | 危険物施設保安員 |
|---|---|---|---|
| 根拠 | 消防法第12条の7 | 消防法第13条 | 消防法第14条 |
| 単位 | 事業所 | 製造所等(施設) | 製造所等(施設) |
| 主な対象(消防庁資料の例示) | 第4類の危険物の指定数量の3,000倍以上を扱う製造所、一般取扱所等 | 製造所、給油取扱所等 | 指定数量の100倍以上の製造所、一般取扱所等 |
| 資格要件 | なし | 甲種・乙種危険物取扱者で実務経験6か月以上 | なし |
| 選任・解任の届出 | 遅滞なく市町村長等へ(規則 様式第19) | 遅滞なく市町村長等へ(規則 様式第20、実務経験証明書は様式第20の2) | 消防庁の届出等様式一覧には様式の掲載なし |
押さえておきたいのは、3つのうち資格要件があるのは危険物保安監督者だけという点です。統括管理者や施設保安員を選ぶときは免状の有無は条件になりませんが、監督者を選ぶときは免状の種類と実務経験の両方を確認しなければなりません。統括管理者や施設保安員が必要かどうかも、扱う危険物の量と施設の区分で決まります。監督者の要否を消防本部に問い合わせるときに、あわせて確認すると手間が省けます。
選任したあとに管理しておくこと
監督業務を実際に果たせる配置か
消防庁の「危険物施設違反処理マニュアル」(平成26年)は、市町村長等が出す危険物保安監督者の解任命令(消防法第13条の24)の対象を2つ挙げています。監督者が法令に違反した場合と、業務を続けさせると公共の安全の維持や災害の発生防止に支障が出るおそれがある場合です。後者の例として、次のような場合が示されています。
- 同時に監督業務を果たせない2つ以上の施設で、同じ人が選任されている場合
- 職制などの事情で監督業務ができない場合
- 旅行や病気などで長い間職務を行えない場合
名目だけの選任や、離れた複数施設の掛け持ちは避ける必要があります。
未選任のまま操業しない
同じマニュアルでは、監督者を選任していない場合や、選任していても必要な監督業務が行われていない場合は警告の対象とされています。改善されず悪質な場合は、製造所等の使用停止命令(消防法第12条の2第2項)に進む流れです。また消防庁の資料では、選任せずに事業を行うこと(第13条第1項違反)や、選任・解任の届出を怠ること(第13条第2項違反)が罰則の対象として整理されています。
保安講習の受講管理
製造所等で危険物の取扱作業に従事する危険物取扱者には、都道府県知事等が行う保安講習の受講義務があります(消防法第13条の23)。従事を始めた日から1年以内に受講し、その後は講習を受けた日以後の最初の4月1日から3年以内に受講します。新たに従事する人でも、過去2年以内に免状の交付か講習の受講があれば、その日以後の最初の4月1日から3年以内に受講します。監督者として選任した社員が取扱作業に従事していれば、この受講管理も必要です。周期の数え方は危険物取扱者 保安講習の受講義務の記事で詳しく扱っています。
よくある質問
Q. 乙種第4類の免状しかない社員を監督者にできますか。
施設で扱う危険物が第4類だけで、実務経験が6か月以上あれば選任できます。第4類以外の危険物も扱う施設では、乙種第4類の人はそれらの取扱作業を監督できません。甲種の人か、該当する類の乙種免状を持つ人を充てる必要があります。
Q. 丙種危険物取扱者は監督者になれますか。
なれません。東京消防庁の資料では、丙種はガソリンや灯油などを取り扱うことはできても、立会いと監督者への選任はできないとされています。丙種の範囲は危険物取扱者丙種の記事も参考にしてください。
Q. 監督者が退職しました。何をすればよいですか。
解任の届出を遅滞なく市町村長等に出し、後任を選任して選任の届出(実務経験証明書を添付)を出します。消防庁のマニュアルでは、監督者がいない状態は警告や使用停止命令の対象として扱われています。資格者がいないために選任できない場合も、未選任であることに変わりはないとされています。後任の資格者がすぐに見つからない場合は、早めに管轄の消防署に相談してください。
Q. 1人の監督者が複数の施設を兼ねてもよいですか。
兼任してよいかどうかを一律に定めた規定は、この記事の調査では確認できていません。ただし消防庁のマニュアルでは、同時に監督業務を果たせない複数の施設で同じ人が選任されている場合を、解任命令の対象となる例に挙げています。兼任を考えるときは、施設の位置関係や稼働時間を示して、管轄の消防署に事前に相談するのが確実です。
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まとめ
- 選任の義務を負うのは、政令で定める製造所等の所有者・管理者・占有者です。資格者本人ではありません(消防法第13条第1項)。
- 選任が必要かどうかは、指定数量の倍数と施設の区分を許可書類で確かめたうえで、管轄の消防本部・消防署に問い合わせて確定させます。
- 選べるのは甲種・乙種の危険物取扱者で実務経験6か月以上の人だけです。乙種は免状に記載された類に限られ、丙種は選任できません。
- 選任・解任のたびに、様式第20の届出書と様式第20の2の実務経験証明書を、遅滞なく市町村長等へ出します。
- 資格要件があるのは監督者だけです。統括管理者(消防庁資料の例示では第4類の指定数量3,000倍以上の製造所・一般取扱所等)と施設保安員(同じく指定数量100倍以上の製造所・一般取扱所等)には資格要件がありません。
出典
- 消防法 第10条第1項・第2項、第11条第1項、第12条の2第2項、第12条の7、第13条第1項〜第3項、第13条の2、第13条の23、第13条の24、第14条
- 危険物の規制に関する政令 別表第三
- 危険物の規制に関する規則 様式第16、様式第19、様式第20、様式第20の2
- 総務省消防庁「危険物の規制に関する関係法令(抜粋)」(検討会参考資料1-1)
- 総務省消防庁「危険物施設の保安講習に係る検討の進め方について」(検討会資料1-3)
- 総務省消防庁「危険物規制の概要」(検討会参考資料1-1)
- 総務省消防庁 e-college 掲載資料「危険物施設の区分」「危険物政令別表第3」、消防法の罰則に関する資料
- 総務省消防庁「火災予防・危険物規制事務に係る届出等様式について」
- 総務省消防庁「危険物施設違反処理マニュアル」
- 総務省消防庁『令和6年版 消防白書』第1章第2節「危険物規制」
- 東京消防庁「危険物保安監督者選任、解任届出書」「危険物保安統括管理者選任、解任届出書」「危険物取扱者制度概要」
制度は改正されます。業種・事業場の規模・作業内容によって扱いが変わるため、実際の適用は所轄の労働基準監督署・都道府県労働局・消防署・講習の実施機関で必ずご確認ください。

