常時500人を超える労働者を使用する事業場で、坑内労働か、労働基準法施行規則第18条の第1号・第3号〜第5号・第9号の業務に常時30人以上を従事させている場合は、衛生管理者のうち1人を衛生工学衛生管理者免許を受けた人から選ばなければなりません(労働安全衛生規則第7条第1項第6号)。対象の業務は、高熱・暑熱、有害放射線、粉じん、異常気圧、有害物のガス・蒸気・粉じんです。この免許に試験はありません。第一種衛生管理者免許試験の合格などの前提資格を持つ人が、都道府県労働局長の登録を受けた機関の講習を修了して取得します。
この記事は、総務・人事・安全衛生の担当者向けです。自社の事業場が対象になるかの判定、対象になった場合に誰をどの講習に送るか、いつまでに選任して報告するかを、条文と公式の案内をもとに整理しました。衛生管理者全般の選任義務や、ほかの選任資格との比較は選任義務がある資格の一覧にまとめています。
衛生工学衛生管理者の選任が必要な事業場
衛生管理者は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任しなければなりません(労働安全衛生法第12条、労働安全衛生法施行令第4条)。衛生工学衛生管理者は、そのうち一定の規模で、有害な業務がある事業場に上乗せされる要件です。条件は次のとおりで、3つすべてに当てはまると選任義務が生じます。
| 確認項目 | 条件・内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 事業場の規模 | 常時500人を超える労働者を使用している | 安衛則第7条第1項第6号 |
| 従事する業務 | 坑内労働、または労基則第18条第1号・第3号・第4号・第5号・第9号の業務 | 同上 |
| 従事者数 | 上の業務に常時30人以上を従事させている | 同上 |
| 求められること | 衛生管理者のうち1人を、衛生工学衛生管理者免許を受けた者から選任する | 同上 |
| 担当させる職務 | 衛生に関する技術的事項のうち、衛生工学に関するものの管理 | 安衛則第12条 |
条文は「衛生管理者のうち1人」としています。つまり、規模に応じて必要な衛生管理者の人数(たとえば常時500人超1,000人以下なら3人)の中の1人を、衛生工学衛生管理者免許を持つ人にするということです。第6号には業種の条件がないため、上の3条件に当てはまれば業種を問わず対象になります。
対象業務をどう判定するか(専任要件との違い)
担当者が最も間違えやすいのは、衛生管理者の「専任」要件(第7条第1項第5号)と、衛生工学衛生管理者の要件(第6号)の範囲の違いです。専任要件は労基則第18条の全号が対象ですが、衛生工学衛生管理者の要件は一部の号だけが対象です。
| 労基則第18条 | 業務の内容 | 衛生工学(第6号)の人数に数える | 専任(第5号)の人数に数える |
|---|---|---|---|
| 第1号 | 多量の高熱物体を取り扱う業務、著しく暑熱な場所での業務 | 数える | 数える |
| 第2号 | 多量の低温物体を取り扱う業務、著しく寒冷な場所での業務 | 数えない | 数える |
| 第3号 | ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務 | 数える | 数える |
| 第4号 | 土石、獣毛等のじんあい・粉末を著しく飛散する場所での業務 | 数える | 数える |
| 第5号 | 異常気圧下での業務 | 数える | 数える |
| 第6号 | 削岩機、鋲打機等の使用により身体に著しい振動を与える業務 | 数えない | 数える |
| 第7号 | 重量物の取扱い等重激な業務 | 数えない | 数える |
| 第8号 | ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所での業務 | 数えない | 数える |
| 第9号 | 鉛、水銀、クロム、一酸化炭素、ベンゼン等の有害物の粉じん・蒸気・ガスを発散する場所での業務 | 数える | 数える |
| 第10号 | 厚生労働大臣の指定する業務 | 数えない | 数える |
| (坑内労働) | 坑内での労働 | 数える | 数える |
判定は次の順で進めると整理しやすくなります。
- 事業場の常時使用労働者数が500人を超えるかを確認します。超えなければ第6号は関係ありません。
- 坑内労働と、第18条第1号・第3号・第4号・第5号・第9号の業務に常時従事している人数を把握します。
- その人数が常時30人以上なら第6号に当たり、衛生管理者のうち1人を衛生工学衛生管理者にします。
- あわせて第5号も確認します。常時1,000人を超える事業場か、常時500人を超え、坑内労働または第18条各号(全号)の業務に常時30人以上を従事させる事業場では、衛生管理者のうち少なくとも1人を専任にしなければなりません。
たとえば、常時500人超の事業場で、有害な業務が騒音職場(第8号)と重量物の取扱い(第7号)だけであれば、第5号の専任は必要になる可能性がありますが、第6号の衛生工学衛生管理者は必要ありません。各号の具体的な範囲は通達(昭和43年7月24日基発第472号「有害業務の範囲について」)で示されています。自社の作業が当たるか判断しにくいときは、所轄の労働基準監督署に確認してください。
衛生工学衛生管理者になれる人と講習の科目
衛生工学衛生管理者免許は、次のいずれかの前提資格を持つ人が、都道府県労働局長の登録を受けた機関の「衛生工学衛生管理者講習」を修了すると受けられます(安衛則別表第四、衛生管理者規程第4条)。前提資格によって免除される講習科目が異なります(同規程第4条の2)。
| 前提資格 | 免除される科目 | 受講する科目と時間 |
|---|---|---|
| 大学・高等専門学校で工学または理学の課程を修めて卒業 | なし | 全5科目 計30時間 |
| 第一種衛生管理者免許試験に合格 | 労働基準法、労働安全衛生法、労働生理 | 労働衛生工学14時間、職業性疾病の管理6時間 計20時間 |
| 大学で保健衛生に関する学科を専攻して卒業し、労働衛生に関する講座・学科目を修めた | 労働基準法、労働安全衛生法、労働生理 | 計20時間(同上) |
| 労働衛生コンサルタント試験(保健衛生)に合格 | 労働安全衛生法、職業性疾病の管理、労働生理 | 労働基準法2時間、労働衛生工学14時間 計16時間 |
| 労働衛生コンサルタント試験(労働衛生工学)に合格 | 労働安全衛生法、労働衛生工学 | 労働基準法2時間、職業性疾病の管理6時間、労働生理2時間 計10時間 |
| 作業環境測定士となる資格を有する | 労働安全衛生法、労働衛生工学 | 計10時間(同上) |
講習の科目と最低時間は衛生管理者規程第3条で次のように定められています。修了試験も行われます(中央労働災害防止協会の案内では、講習科目ごとに修了試験があります)。
| 講習科目 | 主な範囲 | 講習時間 |
|---|---|---|
| 労働基準法 | 労働基準法と関係命令の関係条項 | 2時間 |
| 労働安全衛生法(関係法令を含む) | 労働安全衛生法、作業環境測定法、じん肺法と関係命令の関係条項 | 6時間 |
| 労働衛生工学に関する知識 | 作業環境改善の進め方、局所排気装置・全体換気装置・廃液処理装置等、作業環境測定と評価、保護具、リスクアセスメントを含む自主的活動 | 14時間 |
| 職業性疾病の管理に関する知識 | 職業性疾病の基礎知識、発生事例と対策、健康管理の進め方、教育の方法 | 6時間 |
| 労働生理に関する知識 | 人体の組織と機能、疲労とその予防、職業適性 | 2時間 |
注意したいのは、規程が前提資格として挙げているのは「第一種衛生管理者免許試験に合格した者」だという点です。保健師や薬剤師などの資格により試験免除で第一種免許を取った人は、このルートの対象外であると中央労働災害防止協会も明記しています。社内の第一種免許保有者を候補にするときは、試験に合格して取得した人かどうかを先に確認してください。第一種の試験から準備する場合は第一種衛生管理者の取得方法を参照してください。
講習の実施機関・日数と、免許取得までの流れ
講習を行えるのは、都道府県労働局長の登録を受けた機関です。中央労働災害防止協会(中災防)は、東京・大阪安全衛生教育センターと各地区の安全衛生サービスセンターで実施しています。福岡労働局の登録機関一覧(令和7年5月16日現在)には、学校法人産業医科大学が載っています。
法令が定めているのは講習の「時間」で、日数は機関や会場によって異なります。2026年10月時点の中災防の案内では、東京・大阪安全衛生教育センターが5日・4日・2日のコース(2日コースは東京のみ)を設けていて、工学・理学の大学等の卒業者は5日コースの全日程を受講します。関東安全衛生サービスセンターの令和8年度の案内では、第一種衛生管理者免許試験の合格者と保健衛生学科の卒業者が3日間です。これに労働衛生コンサルタント(保健衛生)の資格が加わる人は2日間、労働衛生コンサルタント(労働衛生工学)か作業環境測定士の資格が加わる人は1日となっています。日程や受講料は年度ごとに変わるので、申込みの前に各機関の最新の案内を確認してください。
受講者を決めてから選任できるようになるまでの流れは次のとおりです。
- 受講者の前提資格を確認し、証明書類(第一種衛生管理者免許、卒業証明書、合格証など)をそろえます。
- 登録機関の講習に申し込み、受講して修了試験を受けます。
- 講習修了証を受け取ります。
- 免許申請書(様式第12号)に講習修了証と前提資格の証明書類を添えて申請します。福岡労働局の案内では、申請先は住民票がある都道府県労働局です。
- 申請先の労働局が審査し、東京労働局免許証発行センターが免許証を発行して郵送します。
- 免許の交付を受けた人を衛生工学衛生管理者として選任し、報告します。
第6号は「衛生工学衛生管理者免許を受けた者」から選任するよう定めています。講習を修了しただけでは選任できず、免許の交付まで済ませる必要があります。事業場が条件に当てはまりそうになったら、講習日程と免許交付にかかる期間を見込んで、早めに受講者を決めておくと安全です。
第一種衛生管理者との違い
どちらもすべての業種で衛生管理者として選任できる免許です(安衛則第7条第1項第3号)。違いが出るのは、取得の方法と、第6号の枠に充てられるかどうかです。
| 比較項目 | 第一種衛生管理者免許 | 衛生工学衛生管理者免許 |
|---|---|---|
| 取得の方法 | 免許試験に合格(医学の課程の卒業者などは試験免除) | 免許試験はない。前提資格を持つ人が登録講習を修了(修了試験あり) |
| 衛生管理者として選任できる業種 | すべての業種 | すべての業種 |
| 第6号の「衛生工学衛生管理者」枠 | 充てられない | 充てられる |
| 担当する職務 | 衛生に関する技術的事項 | 第6号により選任された場合は、衛生工学に関するものを管理(安衛則第12条) |
| 作業場の巡視 | 少なくとも毎週1回(安衛則第11条) | 同じ |
第一種衛生管理者免許試験の合格者は講習が20時間分で済み、工学・理学の課程の卒業者(30時間)より短く済みます。
選任と選任報告:何をいつまでに出すか
衛生工学衛生管理者も衛生管理者の1人なので、選任の期限や報告のしかたは衛生管理者の一般ルールに従います。報告方法は2025年1月1日施行の改正(令和6年厚生労働省令第45号)で電子申請が原則になり、それまでの様式第3号は廃止されました。
| 手続き | 期限・方法 | 根拠 |
|---|---|---|
| 選任 | 選任すべき事由が発生した日から14日以内 | 安衛則第7条第1項第1号 |
| 選任する人 | その事業場に専属の者(労働衛生コンサルタントを含む場合の例外あり) | 同第2号 |
| 選任報告 | 選任後遅滞なく、所轄労働基準監督署長へ電子情報処理組織(e-Gov電子申請)で報告 | 同条第3項 |
| 添付するもの | 免許を受けた者であることなどを証明できる電磁的記録 | 同条第3項 |
| 書面での報告 | 電子申請の環境が整っていない場合などは、当分の間、経過措置として書面でも可 | 令和6年3月28日基発0328第15号 |
| 職務を行えないとき | 旅行・疾病・事故などのときは代理者を選任 | 同条第2項(第3条を準用) |
| 規定どおりに選任できないとき | やむを得ない事由があり、所轄都道府県労働局長の許可を受けた場合は特例あり | 安衛則第8条 |
選任報告の報告事項には、衛生工学衛生管理者に関係する項目が含まれています。
- その衛生管理者が衛生工学に関するものを管理する者かどうかの別
- 坑内労働または労基則第18条各号の業務に常時従事する労働者の数
- 坑内労働または労基則第18条第1号・第3号〜第5号・第9号の業務に常時従事する労働者の数
- 専属かどうか、専任かどうか(兼務がある場合はその内容)
- 前任者がいる場合は、その氏名と辞任・解任等の年月日
報告では業務ごとの従事者数を記入するため、前の章の判定で数えた人数をそのまま記録として残しておくと手続きが楽になります。厚生労働省の「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」を使えば、選任報告の作成と電子申請ができます。
よくある質問
Q. 第一種衛生管理者免許を持っていれば、講習を受けずに衛生工学の枠に充てられますか。
充てられません。第6号は衛生工学衛生管理者免許を受けた者からの選任を求めています。第一種免許だけでは要件を満たしません。第一種衛生管理者免許試験の合格者が講習を修了し、衛生工学衛生管理者免許の交付を受ける必要があります。
Q. 保健師の資格で第一種衛生管理者免許を取った社員は、講習を受けて衛生工学の免許を取れますか。
第一種免許を前提とするルートは使えません。衛生管理者規程第4条第2号が対象にしているのは第一種衛生管理者免許試験の合格者と、指定された保健衛生学科の卒業者で、試験免除で第一種免許を取った人は含まれません。ただし、大学・高専の工学・理学の課程の卒業者や、作業環境測定士となる資格を持つ人など、別の前提資格に当てはまれば、そのルートで受講できます。
Q. 社内に医師や労働衛生コンサルタントがいれば足りますか。
医師や労働衛生コンサルタントは、衛生管理者として選任できます(安衛則第10条)。ただし第6号の枠は衛生工学衛生管理者免許を受けた者に限られます。労働衛生コンサルタント試験の合格者であれば、講習を修了して免許を受けることで、この枠に充てられます。
Q. 選任報告は紙でも出せますか。
2025年1月1日から電子申請が原則です。ただし、電子申請を行う端末がないなど環境が整っていない場合は、当分の間、経過措置として書面による報告も認められています。
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まとめ
- 常時500人超の事業場で、坑内労働または労基則第18条第1号・第3号〜第5号・第9号の業務に常時30人以上が従事していれば、衛生管理者のうち1人を衛生工学衛生管理者にする義務があります。
- 人数に数える業務の範囲は専任要件(第18条の全号)より狭いので、号ごとに分けて従事者数を数えます。
- 免許に試験はなく、前提資格を持つ人が登録講習(全科目で30時間、第一種試験の合格者は20時間)を修了し、労働局で免許申請をして取得します。
- 試験免除で第一種免許を取った人は、第一種免許を前提とするルートの対象外です。講習修了だけでは選任できず、免許の交付が必要です。
- 選任は事由の発生から14日以内、報告は遅滞なく所轄労働基準監督署長へ電子申請が原則です(2025年1月1日施行。当分の間は書面も可)。
出典
- 労働安全衛生法 第12条
- 労働安全衛生法施行令 第4条
- 労働安全衛生規則 第3条、第7条(第1項第1号〜第6号、第2項、第3項)、第8条、第10条、第11条、第12条、別表第四
- 労働基準法施行規則 第18条
- 衛生管理者規程(昭和47年労働省告示第94号)第3条、第4条、第4条の2
- じん肺法施行規則等の一部を改正する省令(令和6年厚生労働省令第45号)
- 厚生労働省労働基準局長通知「じん肺法施行規則等の一部を改正する省令の公布について」(令和6年3月28日基発0328第15号)
- 厚生労働省通達「有害業務の範囲について」(昭和43年7月24日基発第472号)
- 厚生労働省「労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されました(令和7年1月1日施行)」
- 厚生労働省「衛生管理者について教えて下さい。」
- 東京労働局「総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医のあらまし」
- 東京労働局「労働安全衛生法に基づく免許の交付要件」
- 東京労働局「労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます(令和7年1月1日~)」
- 福岡労働局「無試験(試験免除)で免許を受けられる方」
- 福岡労働局「衛生工学衛生管理者講習実施機関(令和7年5月16日現在)」
- 中央労働災害防止協会 東京・大阪安全衛生教育センター「衛生工学衛生管理者コース(5日・4日・2日コース)」
- 中央労働災害防止協会 関東安全衛生サービスセンター「衛生工学衛生管理者講習」
制度は改正されます。業種・事業場の規模・作業内容によって扱いが変わるため、実際の適用は所轄の労働基準監督署・都道府県労働局・消防署・講習の実施機関で必ずご確認ください。

