建設業と造船業の現場で元請(特定元方事業者)と下請の作業が同じ場所で行われる場合、選任が必要な人は現場の作業従事者の数で決まります。常時50人以上(ずい道等・圧気工法・一部の橋梁工事は30人以上)になると、元請は統括安全衛生責任者を置き、建設業ならさらに元方安全衛生管理者を置きます。下請のうち自ら仕事をする会社は、それぞれ安全衛生責任者を置きます。建設業でそれより規模が小さい一定の現場では、元請の支店などに店社安全衛生管理者を置きます。
この記事は、社員を現場の責任者として登録する総務・人事・安全衛生の担当者向けです。「自社の現場はどの役職が必要か」「誰を充てればよいか(資格が要るか)」「元請と下請のどちらが何をするのか」という迷いに、労働安全衛生法・施行令・労働安全衛生規則の条文に沿って答えます。2025年の法改正(令和7年法律第33号)で人数の数え方が「労働者」から「作業従事者」に変わり、2026年4月1日に施行されているので、その点も反映しています。
どの会社が何を選任するか:4つの役職の全体像
4つの役職は、選任するのが元請か下請か、どの業種・規模が対象かで分かれます。まず次の表で、自社がどこに当てはまるかを確かめてください。
| 役職 | 選任する者 | 対象業種 | 選任が必要になる場面 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 統括安全衛生責任者 | 特定元方事業者(元請) | 建設業・造船業 | 同じ場所の作業従事者が常時50人以上(ずい道等・圧気工法・一部の橋梁は常時30人以上) | 法第15条、令第7条 |
| 元方安全衛生管理者 | 統括安全衛生責任者を選任した元請 | 建設業 | 統括安全衛生責任者を選任した現場 | 法第15条の2 |
| 店社安全衛生管理者 | 建設業の元方事業者 | 建設業 | 統括安全衛生責任者は要らないが、一定の工事で常時20人以上の現場 | 法第15条の3、規則第18条の6 |
| 安全衛生責任者 | 統括安全衛生責任者を選任すべき事業者以外の請負人で、自ら仕事を行うもの(下請) | 建設業・造船業 | 統括安全衛生責任者が選任される現場 | 法第16条 |
「特定元方事業者」は、建設業・造船業で、一つの場所で行う仕事の一部を請負人に請け負わせている者のうち、最も先次の注文者(いわゆる元請)を指します。「関係請負人」は、その下に連なるすべての次数の請負人です(法第15条第1項)。施行令第7条第1項が法第15条の「政令で定める業種」を造船業としているため、統括安全衛生責任者と安全衛生責任者は造船業の現場にもかかります。一方、元方安全衛生管理者(法第15条の2)は施行令に追加の業種の定めがなく、店社安全衛生管理者(法第15条の3)は条文で建設業に限られているので、どちらも建設業だけの役職です。
人数の数え方と、ずい道・圧気・橋梁の特例
数えるのは「作業従事者」。2026年4月から一人親方なども含む
選任基準の人数は、元請の作業従事者と、すべての関係請負人の作業従事者を合計した数です。法改正で、条文の表現が「労働者」から「作業従事者」(事業を行う者が行う仕事の作業に従事する者)に変わりました。厚生労働省の改正説明資料では、建設業などの元方事業者が行う統括管理の対象に「個人事業者等」が含まれることを明確にした改正として、施行を2026年4月としています。同資料での「個人事業者等」は、個人事業者のほか中小事業者の代表者や役員も含みます。下請の社長や一人親方が多い現場では、2026年4月以降、数え直すと基準を超えることがあります。
基準となる人数
| 仕事の区分 | 統括安全衛生責任者(建設業・造船業) | 店社安全衛生管理者(建設業のみ) |
|---|---|---|
| ずい道等の建設の仕事、圧気工法による作業を行う仕事、特定の場所での橋梁の建設の仕事 | 常時30人以上 | 常時20人以上30人未満 |
| 主要構造部が鉄骨造または鉄骨鉄筋コンクリート造である建築物の建設の仕事 | 常時50人以上 | 常時20人以上50人未満 |
| 上記以外の仕事(造船業を含む) | 常時50人以上 | 該当なし(下記参照) |
店社安全衛生管理者の人数は、規則第18条の6で「常時20人」(ずい道等・圧気・特定の橋梁と鉄骨造・鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物)、「常時50人」(それ以外)と定められています。ただ、法第15条の3は統括安全衛生責任者を選任しなければならない場所を対象から除いています。そのため実際に対象になるのは表の範囲で、「それ以外」の工事は50人に達した時点で統括安全衛生責任者の選任が必要になり、店社安全衛生管理者の対象からは外れます。
橋梁の特例は場所で決まる
橋梁の建設がすべて30人基準になるわけではありません。施行令第7条第2項第1号は、作業場所が狭いことなどにより安全な作業が損なわれるおそれのある場所で行うものに限っており、規則第18条の2の2がその場所を「人口が集中している地域内における道路上若しくは道路に隣接した場所又は鉄道の軌道上若しくは軌道に隣接した場所」と定めています。これに当たらない場所の橋梁工事は、50人基準で判断します。
元請が現場に置く2人:統括安全衛生責任者と元方安全衛生管理者
誰を充てるか
| 項目 | 統括安全衛生責任者 | 元方安全衛生管理者 |
|---|---|---|
| 充てる人・資格 | その場所で事業の実施を統括管理する者(法第15条第2項)。学歴や実務年数の要件は条文にない | ①大学・高専の理科系統の正規の課程を卒業し、その後3年以上の建設工事の施工における安全衛生の実務経験、②高校・中等教育学校の理科系統の正規の学科を卒業し、その後5年以上の同実務経験、③厚生労働大臣が定める者(規則第18条の4) |
| 専属 | 条文上の定めなし | その事業場に専属の者(規則第18条の3) |
| 任務 | 元方安全衛生管理者の指揮と、法第30条第1項各号の事項の統括管理 | 法第30条第1項各号の事項のうち技術的事項の管理 |
| 行政の関与 | 都道府県労働局長が業務の執行について事業者に勧告できる(法第15条第5項) | 労働基準監督署長が増員・解任を命じられる(法第15条の2第2項) |
統括安全衛生責任者は「現場のトップ」を充てる役職で、厚生労働省の改正説明資料の体制図でも所長が例として示されています。安全担当の社員を形式的に名前だけ置くことは、条文の「事業の実施を統括管理する者」に合いません。元方安全衛生管理者は、厚生労働大臣が定める者を除き理科系統の学歴が条件で、後述の店社安全衛生管理者より要件が厳しくなっています。社員の学歴と、建設工事の施工での安全衛生の実務年数を記録しておくと、選任時に確認しやすくなります。
元方安全衛生管理者を選任した事業者は、混在作業による労働災害を防ぐために必要な措置をとる権限を与えなければなりません(規則第18条の5)。また、出入口から1,000メートル以上の場所で作業するずい道工事や、ゲージ圧力0.1メガパスカル以上の圧気工法など、施行令第9条の2の仕事が数次の請負で行われる場合は、統括安全衛生責任者は救護に関する技術的事項を管理する者の指揮と救護の措置の統括管理も担います(法第15条第4項)。
統括管理する事項(法第30条第1項と規則)
統括安全衛生責任者が統括管理するのは、特定元方事業者が講じなければならない法第30条第1項の措置です。規則で具体的な方法が決められています。
| 法第30条第1項 | 規則で決められている内容 |
|---|---|
| 第1号 協議組織の設置・運営 | 特定元方事業者とすべての関係請負人が参加する協議組織を置き、会議を定期的に開く。関係請負人は参加しなければならない(第635条) |
| 第2号 作業間の連絡・調整 | 元請と下請の間、下請同士の間で随時行う(第636条) |
| 第3号 作業場所の巡視 | 毎作業日に少なくとも1回。関係請負人は巡視を拒んだり妨げたりしてはならない(第637条) |
| 第4号 関係請負人が行う安全衛生教育への指導・援助 | 教育を行う場所や資料の提供など(第638条) |
| 第5号 計画の作成と指導(建設業のみ) | 工程表などの工程計画と、主要な機械・設備・作業用仮設建設物の配置計画を作成する(第638条の2、第638条の3)。一定の車両系建設機械や、つり上げ荷重3トン以上の移動式クレーンを使う作業について、下請の作業計画がこの計画に合うよう指導する(第638条の4) |
| 第6号 その他必要な事項 | クレーン等の合図、事故現場等の標識、有機溶剤等の容器の集積箇所、警報の統一(第639条〜第642条)、ずい道等での避難訓練の統一(第642条の2)、建設業での新規入場者への周知のための場所・資料の提供(第642条の3) |
店社安全衛生管理者:統括安全衛生責任者が要らない現場を支店などから見る
店社安全衛生管理者は現場ではなく、その工事の請負契約を結んでいる事業場(支店や営業所など)ごとに選任します(法第15条の3第1項)。統括安全衛生責任者を置くほどではない中規模の現場を、事業場の側から指導する役職です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 資格(規則第18条の7) | ①大学・高専を卒業し、その後3年以上の建設工事の施工における安全衛生の実務経験、②高校・中等教育学校を卒業し、その後5年以上の同実務経験、③8年以上の同実務経験、④厚生労働大臣が定める者。理科系統の限定はない |
| 職務(法第15条の3、規則第18条の8) | 現場で法第30条第1項各号の事項を担当する者への指導のほか、①少なくとも毎月1回現場を巡視、②作業の種類など作業の実施状況の把握、③協議組織の会議に随時参加、④法第30条第1項第5号の計画(工程・機械等の配置)に関する措置が講じられていることの確認 |
規則第18条の6第2項には、店社安全衛生管理者の選任対象となる現場で、統括安全衛生責任者の職務を行う者と、元方安全衛生管理者の資格がある元方安全衛生管理者の職務を行う者を置き、それぞれの職務をさせている事業者は、店社安全衛生管理者を選任してその職務を行わせているものとみなす定めがあります。中規模の現場にも統括・元方の体制を自主的に置いている会社は、この規定に当てはまるかを確認してください。
下請が置く安全衛生責任者
統括安全衛生責任者が選任される現場では、元請以外の請負人で自らその仕事を行う会社が、それぞれ安全衛生責任者を選任します(法第16条第1項)。仕事を全部再下請に出して自社の作業がない会社は、条文上の対象(「当該仕事を自ら行うもの」)に当たりません。選任したら、統括安全衛生責任者を選任した事業者(元請)に遅滞なく通報しなければなりません(同条第2項)。法令上、安全衛生責任者の学歴や実務経験の要件は定められていません。
職務は規則第19条で次の6つと決められています。統括安全衛生責任者との「窓口」と、自社の作業の管理が中心です。
- 統括安全衛生責任者との連絡
- 統括安全衛生責任者から連絡を受けた事項の関係者への連絡
- 統括安全衛生責任者から連絡を受けた事項のうち、自社に関係するものの実施についての管理
- 自社が作業の計画を作る場合に、元請が作る工程・機械等の配置の計画と整合するよう統括安全衛生責任者と調整すること
- 自社の作業従事者の作業と、他の者の作業によって生じる労働災害の危険の有無の確認
- 自社が仕事の一部をさらに再下請に出している場合の、再下請の安全衛生責任者との作業間の連絡・調整
職長教育は安全衛生責任者の選任とは別の制度で、対象者の考え方は職長教育は誰に受けさせるかで整理しています。足場の組立てなど特定の作業ごとに必要な作業主任者も、人数基準とは別に選任します(作業主任者の選任と氏名の掲示)。
元請と下請はそれぞれ何をするか:手続と分担
選任後の手続と、現場での義務の分担を元請・下請で並べると次のとおりです。
| 場面 | 元請(特定元方事業者) | 下請(関係請負人) |
|---|---|---|
| 選任 | 統括安全衛生責任者、元方安全衛生管理者(建設業)、店社安全衛生管理者(建設業の該当現場) | 安全衛生責任者(自ら仕事を行う場合) |
| 届出・連絡 | 作業開始後遅滞なく、事業の種類、事業場の名称・所在地、関係請負人の事業の種類・名称・所在地、各役職を選任しなければならないときはその旨と氏名を、現場を管轄する労働基準監督署長に報告(規則第664条) | 安全衛生責任者を選任した旨を元請に遅滞なく通報(法第16条第2項) |
| 協議組織・巡視 | 協議組織の設置・定期開催、毎作業日1回以上の巡視 | 協議組織への参加、巡視を拒まない |
| 合図・標識・警報など | 統一的に定めて関係請負人に周知 | 統一されたものと同じものを使う |
| 法令違反への対応 | 関係請負人とその作業従事者への指導、違反を認めたときの是正指示(法第29条) | 元請の指示に従う(法第29条第3項、第32条第7項)。元請の措置に応じて必要な措置を講じる(法第32条第1項) |
規則第664条の報告は、統括安全衛生責任者が要らない規模の現場でも、特定元方事業者が同じ場所で混在作業を行うときにかかります。第3号〜第5号の役職の事項は、それぞれ選任しなければならないときに報告する項目です。
役職者が旅行・病気・事故などで職務を行えないときは、代理者を選任しなければなりません(規則第20条で第3条を準用)。長期の工事では、代理者を誰にするかを選任時に決めておくと、異動や休職の際にあわてずに済みます。他の選任義務がある資格の期限や報告の全体像は、選任義務がある資格の一覧にまとめています。
よくある質問
Q. 一人親方や下請の社長も人数に数えますか。
2026年4月1日以降は数えます。法第15条などの人数は「作業従事者」の数で、労働者以外の作業従事者も含みます。厚生労働省の改正説明資料では、統括管理の対象に含まれる「個人事業者等」に、個人事業者のほか中小事業者の代表者や役員も入るとしています。
Q. 統括安全衛生責任者になるのに講習の修了や資格は必要ですか。
法令上は、その場所で事業の実施を統括管理する者を充てることだけが要件で(法第15条第2項)、学歴・実務経験・講習の修了は条件になっていません。学歴と実務経験の要件があるのは、元方安全衛生管理者(規則第18条の4)と店社安全衛生管理者(規則第18条の7)です。
Q. 発注者が工事を分けて複数の会社に直接発注した場合、誰が統括安全衛生責任者を置きますか。
特定元方事業者でない発注者が、一つの場所の仕事を二以上の請負人に請け負わせているときは、自ら仕事を行う請負人の中から、措置を講ずべき者を1人指名します(法第30条第2項)。指名は躯体工事など主要な部分を請け負った者について、あらかじめ同意を得て行い、指名できないときは労働基準監督署長に届け出ます(規則第643条)。指名がされないときは労働基準監督署長が指名します(法第30条第3項)。指名された事業者は、その場所のすべての作業従事者について措置を講じ、人数が基準以上なら統括安全衛生責任者を選任します(法第30条第4項、第15条第3項)。発注者などから指名された事業者(法第30条第2項)の規則第664条の報告は、「作業の開始後」ではなく「指名された後」遅滞なく行います(規則第664条第2項)。
Q. 造船所の構内で下請と混在する場合も、元方安全衛生管理者が要りますか。
造船業で必要なのは、常時50人以上の場合の統括安全衛生責任者(元請)と安全衛生責任者(下請)です。元方安全衛生管理者と店社安全衛生管理者は建設業だけの役職なので、造船業の現場では選任の対象になりません。法第30条第1項第5号の計画作成も、規則第638条の2で建設業に限られています。
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まとめ
- 統括安全衛生責任者は建設業・造船業の元請が、常時50人以上(ずい道等・圧気工法・人口集中地域の道路・鉄道に関わる橋梁は30人以上)の混在現場で選任し、現場のトップを充てます。
- 建設業では、統括安全衛生責任者を置く現場に、原則として理科系統の学歴と実務経験の要件がある元方安全衛生管理者を専属で置きます。
- 店社安全衛生管理者は、統括安全衛生責任者が要らない現場のうち、ずい道等・圧気・特定の橋梁で20〜29人、鉄骨造・鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物で20〜49人のときに、請負契約を結んだ支店などの事業場ごとに選任し、毎月1回以上現場を巡視します。
- 下請で自ら仕事を行う会社は安全衛生責任者を選任して元請に通報し、元請は作業開始後遅滞なく労働基準監督署長に報告します。
- 2026年4月1日施行の改正で、人数は一人親方や中小事業者の代表者などを含む「作業従事者」で数えます。既存の現場も数え直してください。
出典
- 労働安全衛生法 第10条第3項、第11条第2項、第15条、第15条の2、第15条の3、第16条、第29条、第30条、第32条(厚生労働省 法令等データベース)
- 労働安全衛生法施行令 第7条、第9条の2(厚生労働省 法令等データベース)
- 労働安全衛生規則 第3条、第18条の2の2、第18条の3〜第18条の8、第19条、第20条、第635条〜第643条、第664条(e-Gov法令API)
- 厚生労働省労働基準局安全衛生部「改正労働安全衛生法説明会 〜個人事業者等の安全衛生対策の推進について〜」
制度は改正されます。業種・事業場の規模・作業内容によって扱いが変わるため、実際の適用は所轄の労働基準監督署・都道府県労働局・消防署・講習の実施機関で必ずご確認ください。
